
トルク管理法
Torque Control Method
トルク管理法とは
トルク管理法(とるくかんりほう)は、高力ボルト接合部における締付け品質を確保するため、トルクレンチを用いて締付けトルク値を直接測定・管理する手法です。
高力ボルト接合は鉄骨造構造の接合方法の中でも特に重要であり、ボルトの締付け状態が不十分だと、接合部がすべり、部材間の支持力が失われます。逆に締付けが過度だと、ボルト本体が破断する危険があります。トルク管理法は、この「適切な締付け」を定量的に確保する方法です。
トルク管理法の原理
ボルトの締付けにおいて、加えたトルク(回転力のモーメント)と軸力(ボルトを引張る力)の関係は、以下の簡易式で表現されます:
T = K × d × F
ここで、T はトルク、K は係数(通常0.15~0.20)、d はボルト直径、F は目標軸力です。
つまり、目標軸力に対応するトルク値を事前に計算し、実施工でそのトルク値を達成すれば、ボルトの軸力が目標値に保証される、という原理に基づいています。
実施方法と留意点
1. 目標トルク値の決定
構造設計者が設定した目標軸力から、上記の式を用いて目標トルク値を計算します。一般的には、以下の標準値が参考となります:
- M16高力ボルト(10.9級):約180~220 N·m
- M20高力ボルト(10.9級):約280~350 N·m
- M22高力ボルト(10.9級):約340~430 N·m
ただし、これはあくまで参考値であり、実際の設計値は構造計算結果に基づいて決定されます。
2. トルクレンチの準備
目標トルク値に対応したトルクレンチを用意します。デジタル式トルクレンチが一般的であり、精度は±4%程度を確保する必要があります。
3. 締付け作業
スパナでボルトを回し、トルクレンチがクリック音を出す(または表示が点灯する)までが目標トルク値到達です。この時点で締付けを終了し、追加で締める必要はありません。
4. 検査・記録
トルク管理実施記録として、接合部ごとに以下を記録します:
- 接合部の位置・階数
- ボルト規格(直径・長さ・等級)
- 実施日時・施工者名
- 測定トルク値(複数回測定の場合は全値)
- 合否判定
5. 不合格時の処置
測定トルク値が目標値の±10%を超えた場合、該当ボルトを一度緩め、再度目標トルク値まで締め直します。これを「再締付け」と呼びます。
トルク管理法と回転角管理法の比較
高力ボルト接合には、トルク管理法の他にナット回転角法があります。
トルク管理法は、締付け軸力を直接測定できるため、より定量的で確実です。一方、部材表面が汚れたり、ボルト穴にさびがあったりすると、係数K が変動し、目標軸力を保証しにくくなります。
回転角法は、ボルトをあらかじめ軽く当てた状態から、規定の回転角(例えば60度)回す方法です。表面汚れの影響は少ないものの、部材の座面状態や温度変化による誤差が入りやすい特徴があります。
近年は、トルシアボルト(ボルト本体がねじ切れるタイプ)の採用も増えており、この場合はトルク測定後の回転角確認が追加要件となります。
トルク管理法における環境要因と補正
トルク値とボルト軸力の関係式 T = K × d × F において、係数 K は理論値 0.15~0.20 ですが、実際の現場では多くの要因でこの値が変動します。
最も大きな影響は、ボルト穴周辺のさび・油脂・塵埃です。特に仮組立段階で降雨に晒された接合面、または敷地内の長期保管でさびが生じたボルトは、係数が0.25を超えることもあります。この場合、同じトルク値でも目標軸力に到達しないリスクが高まります。
そのため、先進的な施工現場では、試験用ボルト・ナット・ワッシャーを実際に締付け、逆引張試験機で軸力を直接測定し、現場固有の係数 K を実測値から決定する方法が採用されています。これを「係数決定試験」と呼びます。
また、外気温がマイナス10℃以下の場合や、直射日光で部材が60℃以上に加熱された場合も、ボルト材料の性質変化により軸力が変動するため、温度補正が必要な場合があります。
柴田工業の現場から
トルク管理の記録がいい加減だと、後で問題が生じた時に原因追及ができません。毎日の記録を丁寧に、工事完了まできちんと保管することが、会社の信用を守ることにもなります。